緊急帝王切開
大きな自動扉を入ると、そこは何十畳かのとても大きなスペース。
こんな広いところで手術するの??
そう思ってよく見ると、部屋の中心を真っ二つにする様に幅2mくらいの改札口のようなカウンターがありました。
私はそこに横付けする形で運ばれ、頭の上で名前などの個人データがカウンター向こうのスタッフに告げられたかと思うと
カウンターの上部の板ががこちらに向かって伸びてきて、背中とベッドのすき間に差し込まれました。
「少しだけ体が持ち上がりますからね」
そう言うと同時に、私はベルトコンベア-に乗る形でカウンターの向こう側へ運ばれていきました。
気分はさながら「工場の缶詰」です。(笑)
カウンターの向こうにはストレッチャ-が用意されていて、それに乗ってたくさんある手術室の中の一つへ運ばれていきました。
TVで見たことのある様な手術室・・・部屋に入った途端、緊張感がますます高まってきました。
手術台に乗せられて、顔とお腹の間にカーテンがしかれ、両手は左右共 手術台にひもで縛られました。
左を見ると機械がたくさんついた保育器が2台。
右を見ると私に使われるであろうたくさんの精密機械が並んでいました。
てきぱきと準備をしている助産婦さんたちの中、ぽつんと主治医の先生が手術着で立っていました。
先生はおずおずと助産婦さんに
「あのー・・・今のうちにお手洗い行っといていいかなぁ?」
「は?はい!早く行ってきてください!!」
先生がお手洗いに消えた後、助産婦さんたちと
「モジモジしながらお腹切られると困りますからね(^-^;;」
と おちゃらけた話をしたりしていました。面白すぎ・・・(笑)
消毒も終わり、酸素マスクをつけられた後、手術は始まりました。
私が一番恐れていたこと・・・それは「腰椎麻酔」。
横向きになって、出来る限り膝を抱え込んだ姿勢のまま、背骨に注射をうたれます。
ここで怖いのは 姿勢を崩して注射に失敗するともう一度しなくてはいけないこと。
「まずは注射する部分に消毒を3回します。では丸まってください」
緊張しながら左向きに丸まり、消毒液がついたガーゼで背中を触られると・・・・
「!!」ぴょこん!!(えびぞり)
うわ、えびぞりになっちゃった・・・(・ ・;力いれて我慢我慢・・・
「2回目いきますね」
「!」ぴょこん!!(やっぱり、えびぞり)
ど、どうしよう、また体が勝手にえびぞりになっちゃった・・・!!(;_;)
「3回目いきますよ」
こ、今度こそ・・・
ぴょこん!!(悲しいかな、まだえびぞり)
うわ〜〜〜!!!ど、ど、どうしよう〜〜〜〜!!!
焦りで変な汗が出てきました。
「はい、それでは注射します」
ど、どうしよう・・・!!!絶対失敗する・・・!!
「どうしましょう!?3回とも動いちゃいました・・・!!」
半泣きで手術台の上に乗っていた助産婦さんに訴えると
「大丈夫!私がこうやってしっかり押さえててあげるから!頑張ろう!!」
頷いて、一生懸命大きなお腹を抱えて丸まりました。助産婦さんの体重が手足にかかります。
「はい、行きますよ」
背中に先生の手が添えられました。
全身の神経が背中に集中した感じ・・・。こ、怖いよーーー!!!(≧_≦)
でも頑張らなきゃ!!!
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
冷たい液体がじわーーっと背骨のあたりから入ってくるのが分かります。
「はい。終わりました」
注射が終わって、後ろで支えてくれていた助産婦さんが力を緩めた時
「あの・・・上手くいったんでしょうか・・・?」
すがる気持ちで振り向いて言うと
「大丈夫!とっても上手だったよ!」
あぁ・・・よかったぁぁぁ・・・・
麻酔が終わり、仰向けになると 手足になにやら浮き輪のようなものを付け始めました。
空気が数秒ごとに入ったり、抜けたり・・・エアーマッサージ器???聞いてみると
「血栓ができるのを防ぐんですよ」と教えてもらいました。へぇ〜・・・知らなかった・・・。
なんだか足がだんだんしびれてきました。その範囲はどんどん広がっていきます。
しばらくして、先生が麻酔の効き具合のチェックを始めました。
「どっちが冷たいか教えてください」
下腹部辺りに何か触れている感じ・・・。次にお腹の上のほうに冷たい布が置かれました。
「上のほうが冷たいです」
「それじゃ、今度は?」そういうと次から次へ布をお腹のあちこちに置いていきます。
どうやら触ってるくらいにしか感じないところは麻酔が効いていて、明らかに冷たいところはまだって事なのかな?
何度も置かれている内にだんだん焦りからか麻酔が効いているか分からなくなってきました。
『中途半端にしか聞いてないのに適当な答えしたら、その時点で切られてしまうーーー!!』
そう思うと怖くなってますます判断がにぶくなってしまいました。(^-^;
めげずに何度も何度もしつこく確認してくださった先生、ごめんなさい。(笑)
やっと効きが確認できて、とうとう開腹がはじまりました。
先生達が「メス」とか何とか言ったり、TVで見たような光景が広がっています。
『意識はあるのに、この布の向こう側ではお腹が開いてるんか・・・』
先生の顔は見えるのに、手元はカーテンで目隠しされてるので とっても変な気分です。
ふと天井のライトに目をやると、かすか〜に小さく 真っ赤な光景が反射していました。
ゲゲ・・・!!(≧_≦)ちょい見ちゃった。見ない見ない・・・
何分たったでしょうか・・・
急にお腹がヒモで「グイ!グイ!」と引っ張られる感覚がしました。
次の瞬間
「ほぎゃーーーー・・・」
18時07分・・・1子ちゃん(2052g)の誕生です。
あぁ、産まれたんだ・・・
赤ちゃんはすぐに隣にある保育器に運ばれて、たくさんのスタッフが処置をしています。
また、体がヒモで引っ張られる感覚がしました。
18時08分・・・2子ちゃん(2142g)の誕生です。またすぐに隣の保育器に運ばれていきました。
今度は出てきてすぐに泣き声がしません。あれ・・・どうしたんだろう・・・焦りました。
ちょっとしてから「ほぎゃーーー・・・」
あぁ、よかった・・・もしかしたら少しの時間だったのかも知れませんが、泣くまでの間がとても長く感じました。
「2人とも、元気な女の子ですよ」
ほっとしていると、助産婦さんが処置が終わった1子ちゃんを枕元につれてきてくれました。
まだ胎脂がちょっと体についていて生々しい様子の赤ちゃん・・・
「ほら、お母さんですよ」
何だか照れてしまいます。
左手だけ、縛られていたひもが外されました。
これが私の赤ちゃん・・・さっきまでお腹を蹴ってたのに、もう目の前にいるんだ・・・
「うわぁ・・・」
左手で、お手手をそっと触ってみました。何て小さいんだろう。可愛いんだろう。
ちょっぴりの時間で1子ちゃんは連れていかれました。
残念に思っていると、今度は2子ちゃんが連れてこられました。
お手手をそっと触り、さっきは触れなかった頭をそっとなでてみました。
やっぱりちっちゃいなぁ・・・『お腹の中でいつも暴れてたのはキミかぁ』
心の中でつぶやいていました。
2人が連れて行かれると、お腹の処置が始まりました。
台に上がった先生が両足持ち上げてるのが見えるのですが、私の感覚では足は持ち上がってません。
見えてることと感じることが違うので変な感覚・・・
船のような揺れの感覚が続くのでだんだん気分が悪くなって、それを訴えると
薬をいれられたのか・・・急に眠気が襲ってきて、そこからは覚えてません。
目が覚めると、手術も終わって今からまさに病室へ戻るところでした。
エレベーターをあがり、デイルーム(待合室)の横を運ばれていると ぱたやんと両親が駆け寄ってきてくれました。
「よく頑張ったね」と口々に言ってくれた気がするのですが
麻酔でまだ朦朧としていたので、このあたりは ぼんやりとしか憶えていません。
病室に帰ると、あたりは既に暗くなっていました。
それもそのはず、私は手術が始まって帰ってくるまで2時間弱もかかっていたのです。
後日、話を聞くと 同室のみんなも
「普通の人は手術が始まって30分で帰ってくるのに 時間がかかりすぎてる」と心配されていたそうです。
「また後でくるから、安心してゆっくりお休み」
ぱたやんがそう言って病室を出た後、次に目が覚めたのは9時過ぎ。
「あぁ〜・・・この時間じゃみんな帰っちゃったな(^-^;」
ちょっとガッカリしつつ、少しでも痛みを感じる時間を少なくする為に起こさなかった心遣いに感謝して
麻酔が完全に切れるもう少しの間だけ、また眠りにつきました。